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  プラントコストインデックス 「ENN-PCI」 2025年 第1四半期
AACE International 日本支部
ENN-PCI 委員会

1. はじめに

2025年第1四半期(1~3月期)のプラントコストインデックスENNPCIを算定し、2000年からの推移を図1に示した。上昇トレンドは暫く緩やかであったが、今回は前期比で2.9ポイント上昇した。各国の景況感はトランプ政権がもたらす予見困難性にも拘わらず、今のところ堅調さを保っている。米国では消費の落ち込みは見られず、EUも昨年インフレが落ち着いて以降は回復傾向にある。


 図1 プラントコストインデックス ENN-PCI の推移


2. 世界経済

米国の8月総合PMI(*1)は55.4と高い水準であり、小売売上高の推移でも消費の落ち込みは見られない。一方、仕入れ価格の上昇と雇用市場の悪化を示す経済指標も発表されている。(7月ISM非製造業景気指数の仕入れ価格上昇、雇用統計の就業者数の伸び鈍化等)今後「景気後退期」(*2)に陥る可能性は低いと見るが、インフレと雇用環境の動向は関税費用の価格転嫁が今後どの程度まで行われるか次第である。なお、日本企業による価格転嫁の動向は輸出物価指数の推移でおよそ確認出来る。

中国の消費者物価は依然として前年同月比0%付近で横這いだが、7月の生産者物価指数は3.6%の大幅低下で33カ月連続のマイナスとなった。トランプ関税発効前の「駆込み輸出」の反動減と企業間の過当競争の現れだと見られる。

原油価格は、中東情勢の落ち着き、OPECプラスの増産体制の維持など弱含みの材料が基調となり推移しているが、ウクライナの停戦・和平の交渉が完全に頓挫した場合はその反動が懸念される

  (*1)PMI
   購買担当者景気指数のこと。S&Pグローバル社が世界各国の購買担当者にアンケートに
   よって景況感を調査した結果を数値化して公表する。50が景況感の分かれ目となる。


  (*2)米国の「景気後退期」
   米国における景気後退期は、全米経済研究所(非営利の民間研究組織)が景気の転換点を
   判定することで事後的に確定する。



   表1 反応器類(コスト要因PCI)
                   2000年=100

  ■プラント計


3. 我が国の経済

日銀短観(4-6期)は前四半期と同じく雇用人員の不足を示している。人手不足の一因には、「働き方改革」による時間外労働の規制もある。人手不足が今後も賃上げを後押しするのは確実だが、日本経済全体の問題は賃上げが消費者物価の上昇(7月で8カ月連続で前年同月比3%超)に追いつかない点にある。実質賃金は2025年になってマイナスのまま推移している。経済界の一部には、円安による輸入物価の高騰が大きな原因だとして日銀に利上げを催促する向きがあるが、まず自ら従業員への配分を高める努力を望みたい。また、金利を上げることが必ずしも円高をもたらすとは限らない。(*3)設備投資だけは好調である。

第2四半期の実質GDP(速報値)の年率換算1.0%の成長には、同5.3%プラスの設備投資が寄与した。今後の投資計画も増加傾向にある。

  (*3)金利と為替相場の関係
   ENN-PCIの運用メンバーによる独自の見解である。一般的に信じられている「高金利
   は円高」とは異なるが、金利と為替相場の関係については引続き研究を進めている。



4. ENN-PCIの変動要因

ENN-PCI(コスト+需給要因)は247.6となり、前期比2.9ポイント上昇した。主要材の厚中板は前期に続き下落、ステンレス板も小幅続落した。パイプや形鋼も下落基調が続き、材料価格全体が軟調なため製缶機器は下落している。一方、回転機、機械類の指数は前期に引き続き上昇している。機材全体では微減となったが、工事費全般が上昇したことから、今期のENN-PCIは上昇となった。建設業の2025年1〜3月期の営業利益は前年同期比29.6%増、売上高営業利益率も11.1%へと大幅に向上した。「働き方改革」の進捗は、建設業に対して長納期化と建築コストの上昇要因になっている。

  ・表2 ENN-PCI(コスト要因)PDFをダウンロードする
  ・表3 ENN-PCI(コスト要因 + 需給要因)PDFをダウンロードする


  ※PDFを御覧頂くには、ENN 2025年9月10日号(Vol.582)「プラントコストインデックス ENN-PCI」
   52ページに掲載されているユーザー名・パスワードの入力が必要になります。



5. ENN-PCIの将来予測

原料先物は、トランプ関税発表後の4月上旬に急落したが、その後は落ち着きを取り戻している。鉄鉱石の先物価格は1トン当たり100ドル前後、原料炭は110ドル前後で推移している。ニッケル価格(LME)は同15,000ドル前後、銅価格は9,600ドル前後となっており、中国経済の低迷長期化を背景に先高観は乏しい。

こうした中、2025年度の設備投資計画は堅調であり、トランプ関税の影響も現時点では軽微である。このため、ENN-PCIは材料価格に下落圧力があるものの、総じて堅調に推移する見通しである。



  ※ AACE International は米国に本部を置く国際コストエンジニアリング推進協会
   (The Association for the Advancement of Cost Engineering International)である。
   そのAACE日本支部がENN-PCI委員会を設立し、我が国のコストインデックスとして
   ENN-PCIの執筆を担当する。 ご参考:
https://www.aace-japan.org/


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