ENGINEERING IT ONLINE



    IT ONLINE トップページ / ENN-net / 購読・サンプルのお問い合わせ / バナー広告について


 2018.4.24
 東京都市大学 副学長 皆川 勝 氏
 建設実務者向けに教える社会基盤マネジメント
 社会人に学ぶ場を提供、建設業界の課題を学術的に解決

 2016年度から東京都市大学では、社会人を主な対象とした「社会基盤マネジメント」講座が開設されている。そこでは、仕事の中で抱える課題を扱い、その課題について学術的な解決策を考える機会を与えている。受講者は日々実務をこなす40~50歳代の管理職が中心だが、学ぶ場の少ない社会人にとっては、貴重な「学びの場」になっている。このプログラムを推進する皆川勝副学長に狙いと現状について語ってもらった。



皆川 勝(みながわ まさる)氏

昭和54年3月武蔵工業大学工学部土木工学科卒業、昭和56年3月武蔵工業大学大学院工学研究科土木工学専攻修了、昭和56年4月武蔵工業大学工学部助手。以後、講師、助教授を経て、平成14年4月武蔵工業大学工学部都市基盤工学科教授、その後名称変更により東京都市大学工学部都市工学科教授、平成27年4月東京都市大学大学院工学研究科長、平成30年1月東京都市大学副学長。この間、平成3年4月米国テキサスA&M大学へ1年間留学。



















社会人のための社会基盤マネジメント

ENN 社会人を対象に社会基盤マネジメントの講座を持たれていますが、そもそも社会基盤マネジメントとは、どのようなもので、講座を開設した目的は何なのでしょうか。

皆川 インフラ整備に関わるマネジメントということです。

講座は、社会人の受講者に満足していただけるように、仕事で抱えている課題を扱っています。建設プロジェクトの、契約、工期、コストなどを、いかに評価して、適正な仕事を行うかという課題について学ぶ講座となっています。

現在、BIM(ビルディング・インフォメーション・マネジメント)やCIM(コンストラクション・インフォメーション・マネジメント)と言われていますが、これらはただのITの問題ではありません。現場では、どういった使い方が生産性を向上できるのかが重要なのですが、そういった議論はなかなか出てきません。実務では課題が出てきているのに、学術的なプラットフォームで、課題を解決するには至っていません。

そこで「こうした課題を取り上げてもらえるなら」ということで、受講者が集まって来てくれています。実際、40~50歳代の方で豊富な現場経験をお持ちの方が集まっており、中には、国立大学の修士課程を卒業されているのに、再度、入り直す方もいらっしゃいます。

また、一般の若い学生も、ついてゆくのは大変ですが、一緒に学ばせてもらっています。社会人と一般学生が共に学ぶ場を提供することは、大学の重要な使命と考えています。

ENN どのような企業に勤務されている方が受講されているのですか。

皆川 建設企業、コンサルティング企業、自治体や国の発注機関など様々です。建設企業は、大手・中堅に加え、地方まで、様々な企業で働いている方が集まっていますが、技術系だけでなく事務系の方もいます。中には、建設会社の役員の方もいらっしゃいます。

ENN 講座は、いつおやりになっているのですか。

皆川 1学年の受講者数は20名程度とし、実務で多忙な社会人の方に受講していただきたいとの考えから、原則、月1回、第4土曜日と日曜日に開設しています。


実務経験者が教える場に

ENN 社会基盤マネジメント分野で、社会人と一般学生が学べる教育を始められた経緯はどのようなことだったのでしょうか。

皆川 そもそも、社会人を主な対象にした社会基盤マネジメントの教育は、草柳俊二客員教授が高知工科大学で始められました。その後、高知工科大学を退任されたのを機に、本学の客員教授として本学での開講に向けたご指導をいただきました。草柳先生が高知工科大学でおやりになってきたことを本学に定着させるのが狙いです。2017年度からは、高知工科大学での経験をお持ちの五艘隆志先生にも本学に着任していただき、体制を強化しています。

わが国の多くの大学では、社会基盤マネジメントに関する講義はありましたが、実務をおやりになっている方に非常勤講師をお願いしていました。積極的に取り組んでこなかった理由は、建設に関する学問は構造や設計などが中心で、「マネジメントは学問ではない」という見方が大学内にあったからです。

その一方で、社会基盤マネジメントは、建設業界で働く方の仕事の中身にかかわるものですから「なぜ、大学で扱わないのか」と言う意見もありました。こうした意見をお持ちの先生方の支援を受けて、2016年に講座を始めました。まだ3年目ですが、毎年20名近い受講者が集まっています。

ENN 講座にはどのような特徴がありますか。

皆川 まず、社会的要求内容を決めてから、科目を設定しました。理由は、社会の要求に合わせるプログラムを作れば、学生が集まるという信念があるからです。

ENN 受講者は最近、どのような内容の講義に興味をお持ちですか。

皆川 最近の修士論文のテーマには、「施工管理技術者の業務最適化」「働き方改革への対応」「海外進出」「民活」「国内と海外の現場での組織・業務の違い」など様々です。これまでの大学では、先生がテーマをもち、そのテーマに沿って研究をすることが一般的でしたが、受講者は企業の方がほとんどですから、大きな課題を解決することを目指して、受講者の方にテーマを考えてもらっています。

ENN 実務者を対象にするうえで、指導する側はどのように対応されるのですか。

皆川 極力、具体例を示すようにしています。そのために、実務経験者にお願いして、講義していただいています。

ENN 制度的には、一般学生、社会人を問わずに受講できることになっていますが、その内容では学生が受講するのは無理なのではないでしょうか。

皆川 個人的には、一般学生にも受講してもらいたいと考えています。たしかに、講義内容は一般学生にとって、難しいと思いますが、実務をおやりになっている方とお付き合いするのは大切だと思います。また、社会の第一線の方が関わることの「すごさ」をこのプログラムで実感できます。

ENN 受講者は、会社からの指示で来られている方が多いのですか。

皆川: そういう方もいらっしゃいますが、自発的に自己負担で受講されている方もいらっしゃいます。

ENN どのような講座を用意されているのですか。

皆川 : 社会基盤マネジメントを総合的に学べるカリキュラムを用意していますが、講座の中には、プロジェクトマネジメント、リスクマネジメントもあれば、プロジェクトファイナンスもあります。

現在、マネジメントを学べる機会がなかなかありませんから、実務をおやりの方にとっては、有益な内容だと思います。

ENN 今後の課題については、いかがですか。

皆川: 社会人でドクターを取れる大学としてやっていくことです。大学としてもドクターを増やす計画を持っていますが、受講者の中からドクターが出てもらいたいと思います。近い将来、このプログラムで学位を取られた実務家の方が、教授する立場でこのプログラムに参画されることを期待しています。

ENN ありがとうございました。


東京都市大学 草柳 俊二 客員教授
 「社会に出た人が学べる」環境造りに尽力

東京都市大学の社会基盤マネジメントコースは、草柳客員教授が高知工科大学で行った社会人コースを踏襲する形で始まった。なぜ、社会人コースの設置に踏み切ったか、当時を振り返ってもらった。

 
草柳 客員教授
 私が高知工科大学に着任した当時、まだ若い大学でしたから、特色を出す必要がありました。その中で「日本の大学で足りない物は何か」と考え、その一つに社会人教育がありました。

 社会人教育というと、生涯学習が思い浮かびますが、それよりも「社会に出た人が学べる」ことに重点を置きました。海外では、年齢に関係なく、常に学ぶ場所が用意されていますが、日本にはその仕組みがありません。

 また当時の四国の建設業は、2・3代目がどのように建設業を支え、地方を活性させるかという課題がありました。この問題を解決するために、国土交通省の四国地方整備局の局長が「社会人コースを大学に作ろう」と提唱しました。高知工科大学には、岡村甫(はじめ)理事長がいらっしゃって、非常に斬新なお考えをお持ちで、社会人コースを許可してくれました。

 そこで社会人教育を10年間続け、毎年15~16人が学びましたから、のべ150~160人が学んだことになります。加えて、短期コースでは200人が学びました。

 しかし2015年に私が退官し、社会人コースの教授陣はばらけてしまいましたが、「東京都市大学でやってみよう」と考えました。そこで就任されたばかりの三木千壽学長に相談させていただきましたが、学長も「新しいスキームでやりたい」という意向をお持ちで、始まりました。

 現在、日本政府もインフラ輸出に力を入れていますが、技術を提供できても、事業としてのインフラ輸出にはなかなか取り組めていません。韓国は1997年の経済危機の時に、政府に潤沢な資金が無いので、民間に任せようになり、事業としてのインフラの運営が身に付いています。

 これに対して、日本は官が計画を立案して、民間がそれを実行に移している。これでは民間が育ちません。海外で求められているのは、事業としてのインフラ輸出です。日本では、それを実現するための人材が不足していますから、社会人コースがそのための人材育成の一助になってもらいたいと思います。

㈱重化学工業通信社
 

このホームページに関するご意見・ご感想をお寄せ下さい。
    E-mailでのお問い合わせ
掲載の記事・写真・図表などの無断転載を禁止します。
著作権は 株式会社 重化学工業通信社 に帰属します。
Copyright 2002~2018 The Heavy & Chemical Industries News Agency, all rights reserved.