ENGINEERING IT ONLINE



    IT ONLINE トップページ / ENN-net / 購読・サンプルのお問い合わせ / バナー広告について


【連 載】CSTが提案するプラントライフサイクルデータマネジメント     
  第1回 新時代を見据えた設備のICTによる統合データソリューションの展開
        千代田システムテクノロジーズ株式会社 佐々木 充明  2015.9.10

1. はじめに 

本稿では千代田システムテクノロジーズ(CST)が提案するプラントライフサイクルデータマネジメント(PLDM)の考え方、そしてそのPLDMに関わる、いくつかのシステムソリューションなどを紹介しながら、これからの時代におけるプラントの安全・最適操業におけるICT(情報技術)の紹介していく。

CSTは千代田化工建設のグループ会社であった電気・計装のEPC&Mコントラクター、千代田計装とICTソリューションプロバイダーのITエンジニアリングの2社の統合により、2012年10月に設立スタートした。従来の事業に加え、ICTを基盤として、エネルギーと社会インフラ事業の展開も図っている。

その成り立ちの活動の中で見えてきたのは、日本の高度成長期を支えてきた設備産業が、国内の成熟し縮小する市場への対応と、重要な社会インフラを担おうする企業としての社会的責任の間で苦悩している状況に、ICTという観点から支援して行くことの重要性である。CSTは、この状況に対応する一つのソリューションとしてPLDMを提案する。



2. PLDMにより期待される効果

近年、設備産業においてデータマネジメントの必要性が高まってきた背景を以下に述べる。

 図1. CSTのPLDMコンセプト

(1)高経年化設備への対応
高経年化設備の安全で最適な運転と設備の維持、安定操業を達成するためには従来の対応では十分な成果が得られなくなっている。すなわち、設計から建設・運転に関わるプラントの各種データを系統的に管理して行くことで、操業での計画・実践・チェック&アクションのPDCAサイクルに活用することにより、設備の維持と操業の安定性向上をはかるというものである。

安全で最適な運転と設備の維持強化を達成するためには、さまざまなデータを体系的に把握し、活用することが求められている。


(2)高技術継承の仕組みの必要性
技術や技能の継承を仕組みとしてノウハウを蓄積し、継承するための方策としてのPLDM。設備の経年化に加え、ますます少子高齢化が課題となっている。若年労働者の減少に加え、経験豊かなベテランのリタイヤなど労働環境の変化が著しい。

設備の操業から維持管理のノウハウを系統立てて継承するには、各種業務プロセスの整理が必要であり、ナレッジマネジメントなど知識創造的な作業を行う上で、各種データ管理が重要となってくる。PLDMはそうした対応をしていくための基本となる。

生産設備の運転や保全の現場では、マニュアル化する事が難しい様々な技術が存在し、それらを優秀なベテラン社員の経験やノウハウが支えてきた。DCSなどのプラント制御技術により、定常運転時の管理については、現行ほぼ自動化が実現されている設備が多い。

しかし、定修後のプラント立ち上げや、緊急事態などでの非定常状態においては、依然としてベテラン社員の「経験」「勘」「努力」をもって対応しているのが現実と言える。設備の保全管理においても同様である。

これら熟練者の現場力を引き継ぐには多くの時間と経験が必要となる。安全操業を行う上で、ベテラン社員の貴重な暗黙知を含めた技術の継承がなされる必要があり、前述したようにナレッジマネジメントによる知識のテンプレート化が要である。


(3)社会的責任(CSR)への対応とリスクマネジメントの必要性
設備産業では、爆発性ガスや、可燃性液体等の危険物を扱うことが多くこれが意図せず外部に漏えいしたり、適切な運転条件から外れて暴走反応を起こしたり、結果として、火災や爆発と言った事故に発展して、物的、人的な損害が発生するリスクがある。

設備の老朽化と相反し、安全操業に対する設備産業が果たすべき社会的責任は紛れもなく高まっており、あらゆる事故に対するリスクマネジメントが必要である。

こうした設備の安全操業における、リスク対応において、プラントライフサイクルにおける各種段階でのデータを管理することにより、万が一事故が起きた場合の原因究明に活用できる。

新設プラントにおいてもPLDMは必要である。計画段階からプラントのライフサイクルにおける各データを統合的に管理することにより、設備の安全を確保するための運転や計画的な保全の仕組みが活用でき、その後のプラントの適切な変更管理や省エネルギー運転へもつなげる事が期待できる。


3. PLDMが目指すもの

CSTは上記した課題に対し、PLDMの概念と関連システムソリューションを通じて、設備を持つ顧客への解決策を一緒に考えていく。PLDMはEPCコントラクターがプラントの設計、調達、施工のために準備したデータや図書類と、その後プラントのオーナに引き渡され、日常の運転・保守・保全のために得られるデータを一元管理し、それらを発展的に利活用することである。CSTはPLDMを通して設備産業の更なる高度化と安全操業に寄与し、国際的な競争力強化にも貢献したいと考えている。

以下は、PLDM実践におけるCSTの具体的な提案である。

(1)EPC(設計・調達・建設)の情報をO&Mで活用

従来のEPCコントラクターと現場のO&Mは、同じ設備を対象としながら、設計・調達・建設フェーズと、運用・保全フェーズという局面の違いから、そのデータと設備オーナが活用することはほとんどされておらず、非常に有用な情報資産を有効に活用できていなかった。

PLDMでは、それらのデータを統合的に授受する事で、タグ情報やプロセスコンディションはもとより、官庁申請記録や検査データ作成の効率化や、運転員に対しても設計思想を容易に伝達する仕組みと情報インフラの環境構築を目指す。


(2)統合データベースによる安全で効果的な運営

従来のプラントを支援するシステムは、運転は運転、保全は保全、計画は計画という範囲での最適化であり、ライフサイクル全体を俯瞰しての最適な運営は、どうしても長年の経験を有した要員に依存せざるを得なかった。

PLDMでは、変更管理も含め、統合データベースを意識することで、将来的にも運転状況や設備の傾向監視結果を予防保全や省エネ運転へ反映させ、日常保全の結果から予備品の保有量を最適化したり、異常が発生した状況を3Dの画像で確認して、障害発生場所を推定した上で、必要なドキュメントや図面をタイムリーに保全要員に提供する、などの対応がデータの連携で実現することができる環境を目指す。


(3)個々の設備に必要な素早い対応の可能性
従来の保全業務は、先ず事務所から現場に事象を確認に行き、状況に応じて一度事務所に戻って書類を確認し、再び必要な資料を最小限持って広い構内を移動して現場へ行かなければならず、非効率的であった。

タブレット端末などを活用し、現場の状況から必要な作業を抽出し、事務所や遠隔地にいるベテラン要員のアドバイスを受けながら、必要な書類を画面上、ないしは眼鏡に組み込んだ仮想画面を見ながら、作業を行うことができれば、効率的かつミスのない運転・保全業務が可能となる。図2に示すCeSMOはCSTが実現提供しているタブレットソリューションである。

 図2. タブレットソリューション CeSMO


(4)バーチャルプラントの実現
設備産業向けシステムの多くは、数値やグラフの情報を基に判断や制御を行う必要があり、数値やグラフの示す意味を理解した上で対応しなければならず、高度なスキルや長年の経験が要求される。

PLDMでは、P&IDや3Dモデルを仮想空間に見立てて現実のプラントを正確に映し出し、その操作を通して結果を確認しながら対応することを目指す。

たとえば、生産計画に基づくプロセスフローに沿って、実際の運転操作の結果をシミュレーションで先取りすることで、操作の安全性を担保できるだけでなく、若手への技術継承、実機を使ったトレーニング、運転の効率化などに有効な手段を提供できる。

(5)高度で活用し易いリスク分析
設備のリスクアセスメントを行う上でのHAZOPスタディでは、紙とペンを使ってP&IDからプロセス単位でノードを洗出し、そのノード内の流量、温度、圧力、液レベル、組成の正常状態からのズレを想定し、その原因と影響範囲を明らかにし、妥当な対策が為されているかどうかなどを評価してきた。

HAZOPの結果はワークシートの形に纏められるが、データベース化されることはなく、閉じられた世界での分析結果を著す書類として扱われている。

PLDMの世界では、バーチャルプラント上で実際にその結果を確認しつつ分析を行うことができる。更に蓄積されたリスク分析結果を容易に利活用して危険予知を行う事が出来るので、最適なアラームマネージメントなどに活用できる。


4. 今後の予定

シリーズ8回の掲載となるが以下の内容の予定で、PLDMについて詳しく紹介していく。

  第1回:CSTの紹介とプラントライフサイクルデータマネジメントコンセプト
  第2回:PLDMにおけるレーザスキャン技術の展開:3Dモデル活用
  第3回:Dynamic Flow Diagramによる運転支援と安全管理
  第4回:プラントのスペアパーツの調達に貢献するPLDM
  第5回:タブレット利用によるプラントの安全操業:CeSMO
  第6回:製薬におけるPLDM
  第7回:エネルギーマネジメント:EnMS
  第8回:PLDMによる新しい展開




             


















㈱重化学工業通信社
このホームページに関するご意見・ご感想をお寄せ下さい。
  E-mailでのお問い合わせ
掲載の記事・写真・図表などの無断転載を禁止します。
著作権は 株式会社 重化学工業通信社 に帰属します。
Copyright 2002~2015 The Heavy & Chemical Industries News Agency, all rights reserved.