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 2021.11.22
 ENN11月25日号 特集:「プラントライフサイクルをカバーする、エンジニアリングIT」
 プラントライフサイクルをカバーする、エンジニアリングIT
 エンジニアリングITベンダーが注力
 CADはかつて、きれいな図面を描くことができるツールとして、設計などに活用されてきた。しかし2次元CADが3次元CADになり、モデルを作成できるようになり、さらに属性データも持つようになると、モデル情報は設備情報として活用されるようになった。こうした中で、エンジニアリングITベンダーは、プラントや施設のライフサイクルをカバーするソリューションの提供に取り組むようになり、最近ではプラントのオーナーオペレータにも積極的に売り込んでいる。その一方で日揮は、自社の保全サービスブランド「INTEGNANCE」事業の一環として、360°パノラマ写真を設備保全に活用する「INTEGNANCE VR」を開発、プロトタイプの提供を始めた。ITがプラントのライフサイクルを支える時代が訪れたと言える。

 CADが世の中に登場した時、その役割はきれいな図面を描くことだった。それが3次元CADとして、モデルの情報を持つようになると、その情報の有効活用が始まった。設計情報は、プラントや施設のライフサイクルに活用できるようになり、プラントの運転やメンテナンスを効率化した。

 CADの進化に伴い、エンジニアリングITベンダーもプラントのライフサイクルに事業領域を拡大した。現在では、プラント系のエンジニアリングITベンダーのほとんどがライフサイクルに対応できるソリューションを揃えている。そして、企業によっては、設備の稼働状況を吸収するために、買収を実施したり、制御システムメーカーと資本・業務提携契約を締結するなど、他社との連携も強化されている。



シーメンスと「PlantSight」を共同開発したBentley

 他社との連携により、ライフサイクルソリューションに着眼した最初の企業は、おそらくBentleySystemsだろう。

 2016年にPLC(プログラマブル・ロジック・コントローラー)などの制御システムを持つシーメンスと資本・業務提携契約を締結した。

 この提携により両社で開発したのが「PlantSight」だ。Bentley製のソリューションで作成されたエンジニアリングデータを設計情報として利用できるが、リアリティモデリングソフトである「ContextCapture」で獲得した空間情報も取り込むことができる。

 またプラントの制御システムから得られた稼働状況にも対応している。エンジニアリングITベンダーと制御システムメーカーの協業により開発されたソフトだけあって、「PlantSight」の持つ機能は、プラントの稼働や保全を支えるうえで、大きな意味を持つ。

 Bentleyは以前から、データの互換性を重視した事業戦略を取ってきた。この戦略の中であらゆるフォーマットのエンジニアリングデータを取り込むことができるソリューションとして、「i-model」を獲得しており、様々なデータのフォーマットに対応できる。

 このため、ソフトウェアのフォーマットに関係なく、シームレスにライフサイクルソリューションへの対応が可能だ。


OSISoftの買収でO&Mの高度な管理を実現したAVEVA

 ライフサイクルへの対応という点で、目を見張る動きは、昨年8月に、AVEVAが行ったOSIsoftの買収だろう。

 AVEVAは2017年9月に、シュナイダーエレクトリックの産業システム分野と経営統合され、これに伴い、シュナイダーの持つソリューションとの統合を行ってきた。

 この取組は「Unified Engineering」とされてきた。「Unified」は「統合」を意味するが、シュナイダーの持つMES(製造実行システム)やEAM(企業資産管理)システムなどとの統合が進められてきた。

 その経営統合から1 年後のO SIsoftの買収である。

 OSIsoftの「PIsystem」は、レガシー機器、リモート、モバイル、産業用デバイスなど、場所や形式に関係なく、データにアクセスでき、何百億のアセットからリアルタイムでデータを収集できる。こうして収集されたデータは、秒単位の分解能で保存され、信頼性の高い履歴データ、リアルタイムデータ、予測データにアクセスして、重要なオペレーションを継続し、ビジネスの洞察の獲得もできる。

 AVEVAが従来から所有しているエンジニアリングからオペレーションを最適化するソフトウェアと、産業分野の情報管理の業界標準であるOSISoftの「PI system」が連携することで、プラントの設計から建設、そして稼働後のオペレーション・アンド・メンテナンスまで、ライフサイクルをハイレベルで管理することが可能だ。


HexagonPPM・Autodeskもライフサイクル管理に注力

 プラントの設計・施工のEPC向けソリューションでは、最先端を走ってきたHexagonPPMだが、最近は、稼働後のオペレーション・アンド・メンテナンスといったライフサイクルソリューションに積極的に取り組んでいる。

 以前から、オーナーオペレーター向けに、文書、図面、データシートなどの管理を行うソリューションとして、「SDx」を提供してきた。しかし、最近は買収により、オペレーション・アンド・メンテナンス分野に本格的な取組を始めている。

 2019年1月に、運転管理システムの「j5」を持つj5インターナショナル社を買収した。「j5」は、アナログ的な運転管理をデジタル化しており、使い勝手がよく、以前から、日本国内では、j5ジャパンが扱ってきた。国内でまもなく100事業所に納入される見通しで、国内でも普及している。

 さらに今年10月、Hexagom ABは米国のERPベンダーであるインフォア社が持つEAMシステムを買収した。今後は、HexagonPPMがEAMシステムを扱うが、この買収により、プラントのライフサイクルに対応するソリューションが出揃った。

 各社ともに、買収により、ライフサイクルソリューションの品揃えを拡充しているが、クラウドを活用した取組を強化しているのがAutodeskだ。

 Autodeskは最近、プラットフォームForgeを重視した取組を積極的に推進している。

 Forgeはクラウド環境のプラットフォームで、このプラットフォーム上のソフトウェアを有機的に連携させて、互換性を確保しながら使用することを狙っている。Forgeの使用事例には、IBMの提供するEAMシステムであるMaximoとの連携もあり、施設のライフサイクル管理にも活用されている。数多くのソフトウェアがForgeとのプラグインを用意しており、連携が可能だ。

 互換性を確保できるプラットフォームにより、幅広い領域のソフトを連携させながら、ユーザーが自由度を持って、システムを構築できるのも興味深い取組と言える。


日揮は保全サービスの一環として、「INTEGNANCE VR」を提供開始

 日揮は保全サービスブランドとして「INTEGNANCE」を展開しているが、その一環として3Dビューア「INTEGNANCE VR」のプロトタイプ版の提供を11月から開始した。

 「INTEGNANCE VR」は360°画像カメラで撮影した360°パノラマ写真上に関連データをタグ登録することで、各機器や部材の相関関係を可視化するソリューションで、グーグルマップのストリートビューをプラントで実現している。

 日揮が推進する「INTEGNANCE システム」の全体概要

 同時に、画像領域を分割するAI技術であるセマンティックセグメンテーションにより、プラントに数十万点あると言われる配管の自動抽出を可能にしている。これにより、これまでデジタルツインの大きな障壁となっていた「空間データの構築作業」を簡略化できるのが大きな特徴だ。

 11月1日から、これまでに実証実験に協力した顧客に対して、「INTEGNANCE VR」のビューアのプロトタイプを提供を始めた。日揮では、そのフィードバックを基にしたシステムの改善を行い、2022年度中の商用化を計画している。導入にあたっては、既存プラントの360°パノラマ写真撮影から実空間のレーザー計測などの、導入に必要なセットアップ作業も一気通貫で日揮が対応する。

 日揮ホールディングスの国内事業会社である日揮は、かねてから、メンテナンス事業に取り組んできたが、現在では、保全サービスブランド「INTEGNANCE」を立ち上げ、ITを活用した「INTEGNANCE VR」を開発、この開発により、エンジニアリングデータを持たないプラントのメンテナンスを効率的に実施することも可能になる。



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